生産停止の理由としては「技術が足りないにも関わらずオーナーが檄を飛ばせば夢は叶うと思っていたから」ということに尽きる。
死体に鞭打つようだが理由を挙げる。記憶レベルで書いてるので出典はなし。
技術的側面
タブレット台でしかない
対話型ロボットなら対話型インターフェースであるべきなのに、胸に大きなタブレットがある。その段階でユーザーはタブレットを触ろうとしてしまう。
マイクのそばにファンがある
対話型コンピュータということならスマートスピーカーという存在がある。ただスマートスピーカーに比べて圧倒的に音声認識性能が悪い。そもそもマイクの集音性能が悪い。スマートスピーカーならたくさんのマイクが存在して、どこからの音声かも含めて集音するが、ペッパーはマイクの個数が少ない上に、そこそこの高性能なコンピュータがあるのでそのそばにファンがある。マイクのそばにファンがあるという時点でもうアウト。
クラウドではない
スマートスピーカーが高性能でもないのにあんだけの高い性能を出すのは処理をクラウドでやってるから。ペッパーはクラウドベースではないので、どうしてもペッパー側のハードに負担がかかる。やりたいことがちょっとでも複雑になるとアウト。
高性能にするには更にコンピュータを足す必要がある
HoloLensをつけたペッパーのニュース。ユーザインターフェースのはずのヘッドマウントディスプレイをロボットが装着しているのがネタみたいだが、これは大真面目。HoloLensは実質ウィンドウズパソコンなので、実はペッパー内部よりも性能が高い。だから、重めの処理はHoloLensにやらせるのが良いとのこと。
もはやペッパーは、タブレット台兼WindowsPC台になってる。
じゃぁどうすればいいの?
タブレット+スマートスピーカーという選択肢は既に存在し、それを超えることができてない。さらに接客現場で言えばスマートスピーカー自体がさほど受け入れられてない。ロボットが応対するホテルなどもあったが、実際にビジネスが回ってるのは、APAホテルのタッチパネル端末で十分だ。
タッチパネル端末は、駅の券売機でも使われてるし、券売機が音声コミュニケーションになった方がいいというニーズなどない。さらにタッチパネル端末は「複数言語対応」がめちゃくちゃやりやすい。音声ではそうはいかない。
タッチパネル端末を遡ると単なる「キヨスク端末」でしかないので、技術的な新しさはない。ただし技術的にできないことができるようになったからと言って、それがUIとして機能するかどうかはわからない。アラン クーパーが言うところの「踊る熊」である。熊を踊らせるのはとても難しいことであり、熊が踊るとみんな驚く。ただし便利ではない。革新性は驚きをもって迎えられるが、利便性に驚きはマイナスでしか無い。
ビジネス的側面
保守費高すぎた
年間保守費が高すぎた。なんであれで売れると思ったのか。
開発組織へのリスペクトがなかった
ロボットの第一人者をソフトバンクは迎え入れたけど、リスペクトがなかったように思う。トップレベルのエンジニアに対して上司がみんなの前で叱り飛ばすという現場がテレビでも放送されていた。営業現場ならあり得るかもわからないが、技術制約に関しては賢人に恥をかかせて突破できる問題ではない。
イエスマンが多すぎた
ペッパーは技術的に見えれば「あのロボットは裸じゃないの?」という状態だったのだけれど、「バカにはあの将来性が見えないんだ」と一蹴される。恐ろしいのはそのイエスマンが社内だけではなく業界全体に広がっていたというところ。ペッパーのアプリを開発する会社は結構あった。エンジニア向けハッカソンもたくさん開催されていた。本当に将来性があると思っていたのか?将来性はないけど、短期的に稼げるから「王様が裸なわけがないよね!」と言っておいた方がいいからなのか。将来のある若手エンジニアをペッパーの勉強をさせることに本当に意味があると思っていたのか?その辺が疑問。もはやモラルの問題。
次のペッパーは何か?
将来性があるかのように見えて、でも実際にはいつまで経ってもハリボテという技術はいくつかある。以下にあげる。
- AI
- 自動運転
- 全他個体電池
- 電気自動車
- 太陽光発電
- バイオ燃料
- メタンハイドレート
メタンハイドレートなんて、数年に一度のペースで新聞の一面に「燃える氷」として紹介される。そのたびに深海を掘削する「日本海洋掘削」の株価がちょっと上がる。しかしいつまで経っても「そこまでして掘るほど化石燃料が高騰してない」という理由で深海からメタンハイドレートを掘り起こすことはない。2019年に日本海洋掘削は会社更生計画認可されてる。焚きつける人は気が楽だが、裸で行進する王様やそれについていく国民は溜まったもんじゃない。
ブレークスルーはドラマチックじゃない
「夢は叶うのだ!」というのは自由だが、本人含めて中の人が見通しが無い中で風呂敷ばかり広げるのはマジ迷惑。ドキュメンタリーでは「圧倒的逆境の中から大発明が起きた」というのがドラマチックなので紹介されるが、実際のテクノロジーの進化にはドラマなどない。ドラマがないのがよいプロジェクト。これはプロジェクトマネジメント研修で習う。